毎週木曜日の朝日新聞夕刊に掲載されている小泉武夫氏のコラム「食あれば楽あり」を愛読しています。男が求める味の勘所みたいなものが押さえられていて、毎回実にうまそうです。
その先週は〈ソース焼きそば〉。どんな奥の手が登場するのかと期待して読んだら、スーパーの袋入り焼きそばと添付の粉末ソースを使っているので、ちょっとがっかりしてしまいました。と同時に、いまはほぼ絶滅した外食産業を突然思い出しました。
通っていた高校の正門へと曲がる路地の角にあったその店のガラス戸はいつも全開になっていて、その左に焼きそばを焼くスタンドがありました。店内には、赤色のデコラのテーブルにビニール張りの椅子。焼きそばは、発泡スチロールではなくて、ちゃんと皿に盛って出てきました。そこにテーブルの上にある紅ショウガを載せて、青ノリを振りかけて食べる。昼食にはボリュームが少し足りないけれど、下校時の空きっ腹を満たすには適当でした。メニューにはそのほかにラーメン、カレーライス、うどんやあんみつ等々があったような。
中央線中野駅の南口にあった同様の店には、入口の右に今川焼きのスタンドがありました。夏にはそこがかき氷の器械に代ります。アイスクリームのボックスには、バニラと小倉が大きな袋に入っていて、そこから掻き出してアイスモナカにしてくれます。
こんな店が東京にはいくらもあったのですが、バブル期にほぼ全滅してしまいました。当時、こういう業態をなんと呼んでいたのでしょう。軽食堂かな。ちょっと違う気もします。業態の名称など必要ないほどありふれた存在だったのです。
昔話をするようになるのは、年を食った証拠に違いありませんが、思い出すと妙に懐かしい。きっと探せば、下町のどこかに一軒や二軒は生き残っているかもしれません。年明けに旧友たちと向島の七福神巡りをしようじゃないかと話が盛り上がっているので、その折にでも探してみようかな。〈kimi〉