ホッピー談議

このところホッピーを飲む機会が増えました。理由は節酒です。若い頃のようには飲めなくなって、一定量を過ぎるとなんとなく身体がアルコールを拒否し始めるような感覚があります。そんなときにホッピーは便利な飲み物であることに気がつきました。
「ホッピー!」と注文すると、ホッピーだけが出てくるということはあり得ません。大きなグラスに氷と甲類焼酎を半分から三分の一ほど注いだものを伴って登場します。飲み屋では、ホッピー+焼酎+氷のセットではじめて「ホッピー」という商品となり得ます。そういう意味では極めて珍しい飲料です。
その大きなグラスにホッピーを注ぐのですが、その量は飲む方の自由に任されます。そこがポイントです。多めに割って、少し飲んだところでまた割るという動作を繰り返すと、薄めの焼酎をかなり長い時間をかけて飲むことができます。また、これもホッピーならではですが、「中だけ」と追加注文すると焼酎と氷を入れたグラスが、「外だけ」と注文すると瓶入りのホッピーが運ばれて来ます。ご存じの方には釈迦に説法ですが、これは日本中の飲み屋での「お約束」になっているようです。だから「外」だけを追加して行けば、いつかアルコールの成分は限りなく薄くなってしまい、酒を飲んでいるように見えながら実は清涼飲料水だけを飲んでいる、という状態になります。
ホッピー
そのホッピー、若いときにうまいと思ったことは一度もありませんでした。ビールの代用品でビールより安いという触れ込みでしたが、ビールとは似ても似つかない色つきの炭酸水でしかありません。妙な飲み物、胡散臭い飲み物といったイメージもつきまとっていました。
ところが、ある日突然と言ってもよいでしょう。メディアがホッピーを取り上げ始めた。何代目かの女性社長による戦略が効を奏したようで、ビールのまがい物から「ホッピー」という独自の飲み物へとポジションチェンジが図られました。プリン体が含まれていない健康によい飲料という訴求もされています。浅草には「ホッピー通り」まで出現しました。これは見事な成功事例です。
マーケティング広報のオリエンテーションなどで、この製品は他社品をフォローしたものなので、その代替になり得るという訴求をしてほしい、といった依頼を受けることがたまにあります。よくうかがってみると、他社品とは異なるストロングポイントがいくつかあるのですが、担当者はどうせ勝ち目はないとすっかり弱気です。ちょっと視点を変えてみたらどうですか、と提案してみても、弱気が会社全体のコンセンサスになっていると、ポジションチェンジは容易ではありません。
若いときはちっともうまいと感じられなかったホッピーですが、そんなあれこれを考えながら飲むとちょっとイケますよ。〈kimi〉