美談ばっかり

嫌いというわけではないのですが、高校野球というものに私はそれほど関心がありません。東京生まれの東京育ちであるため、郷土愛が薄いこともあるでしょう。進学した高校の野球部が、応援する甲斐もないほどに弱かったということもあります。しかし、一番の要因は、あの特異な実況アナウンスに少々違和感を覚えてしまうからなのです。
今日もラーメン屋で長崎チャンポンを食べながらテレビの実況を眺めていましたが、あれは一種のホメ殺しだと思い当たりました。ネット際でフライをとれば、解説者ともどもキャッチャーをほめちぎる。守備位置の右に飛んだ打球を捕ったセカンドを絶賛する。一方、エラーをすると、見てはいけないものを見てしまったようなアナウンサーのこわばりが伝わってきます。決して選手を非難することなく、ビデオのリプレーもせずに、次のプレーへと話題を転じます。これって、想定してはいけないものは想定しないことにしていた電力会社や役所の態度とどこかつながっているような・・・考えすぎでしょうか。
大相撲の実況も似ています。どの力士も等しく稽古に邁進しているようなことばかり。中には怠け者も悪いヤツらもいるに違いないと思っていたのですが、リンチや野球賭博が表沙汰になったいまも、あまり変化が見られません。これに比べれば、選手をこき下ろすこともあるプロ野球中継の解説の方がいくらかマシに思えます。
高校野球のプロ化とか特待生制度とか、いろいろ問題が指摘されていますが、美談、美談で飾り立てるような偽善性こそがモラルハザードや腐敗をもたらすのではないかと思うのですがね。〈kimi〉

ところでございます

「前向きに検討いたします」というのは「いまは行動を起こす気はありません」ということで、「適切に対処します」と言えば「いままで通りにやります」という意味だったり・・・。このような役人言葉に、物事を几帳面に考える人(まともな人のことですが)が腹を立てるのは至極当然のことです。
さて、ここに新たにご紹介したい役人言葉は、「・・・ところでございます」という表現です。
「それに関しましては、すでに局長通知等によって周知を図ったところでございます」というふうに使われます。よく耳にするでしょう。これを聞くたびに身体の内側がモゾモゾしてしまいます。
これは極めて特異な、役所特有の語法です。たとえば酒屋のオジサンが使うでしょうか? 芸術家が使いますか? タクシーの運転手さんが使いますか?
「運転手さん、次の信号を右に曲がってください」
「はい、その件につきましては、すでに右にウインカーを出したところでございます」
なんて言いっこないでしょう。
どうしてこんなおかしな表現が官僚に広まってしまったのか。まず思いつくのは「官僚の無謬性」という言葉です。官僚は間違うはずがない。少々問題があろうとも、それは失政ではない。したがって過ちを公に認めることもあり得ないという論理ですね。
たとえばジャーナリストに、「これはおかしいんじゃないですか?」と質問されると、「おかしいですねえ」と答えてしまったら過ちを認めることになる。そこで、その件についてはすでに把握していて、(決して有効とは考えてはいないけど)こういう手をすでに打っておりますと言わなければなりません。そのようなときに、「その件につきましては・・・ところでございます」という表現が出てくる。これが出て来たら、言い逃れ、責任逃れだと判断してほぼ間違いなさそうです。
これ、官僚だけに独占させておくことはありませんね。私たちも大いに利用しましょう。言い逃れにはとても便利だと思いますよ。もちろん、まともな人たちからは顰蹙を買いますが。〈kimi〉