その後、STAP細胞の論文への疑問やら韓国のフェリーの沈没やら、大きな事件が立て続けに起こったので、例の偽作曲家の話題は週刊誌やワイドショーからすっかり消えてしまいました。人の噂も七十五日。今頃、偽作曲家はシメシメと思っていることでしょう。
そんなことを思い出したのは、今朝の電車の中で、モーツアルトの弦楽四重奏曲を聴いていたからです。
モーツアルトばかりでなく、私たちが好んで聴くクラシック音楽はバッハ、ヘンデル、ベートーベン、ブラームスなど、17世紀から20世紀初めまでのいわゆる調性音楽です。コンサートでも演奏される音楽のほとんどが調性音楽です。そして、偽作曲家がゴースト作曲家から供給を受けていた音楽もまた調性音楽でした。それでCDがたくさん売れました。もちろん作曲家の耳に障害があるなどという修飾が大いに影響したわけですが、これが無調の現代音楽だったら、ほとんど売れなかったはずです。
新聞や雑誌からの情報によれば、ゴースト作曲家氏も本名で発表しているのは無調の現代曲だそうです。しかし、それは売れていない。
現代作曲家によるとんがった音楽は、誰がどう擁護しようが、そのほとんどが聴いていて面白いものではありません。まるでわからない。数学や理論物理学の最先端の講義を聞いているようなものです。何事によらず最先端を目指すことは大切です。しかし、最先端の部分は誰もが楽しめるものではありません。そこで多くの人たちは、現代クラシック曲には見向きもせず、もっぱらポップスやロックを聴くようになってしまったのだと思います。だって、その方が楽しいもの。
STAP細胞も、その研究を本当に理解できる人は限られます。私たちはわかったようなつもりになっているだけで、実はな~んにもわかっていないのです。そんな難しい話より、もっとわかりやすくて原初的な感性に訴えかける話題の方が楽しいに決まっています。そこで、何回STAP細胞ができたのかとか、ノートの冊数がどうとか、小保方さんが美人だとか洋服のブランドがどうだとか、そんな方面につい関心が向いてしまうのでしょう。〈kimi〉