人によって、無意識に頻用してしまう独得の言い回しや単語があるものです。無意識だけに、よくよく注意して推敲して摘み取らないと、なんともしまらない文章になってしまいます。
筆者の場合、そのような例の一つに「なかなか」があります。
このブログでも、調べてみると、
「それがなかなか難しいのです」
「健常人にはなかなか理解できません」
「これはなかなか便利な機能である」
「なかなかそうは行きません」
などと頻発させています。まことにお恥しい限りです。
この「なかなか」の効用は、ちょっと口語っぽくくだけた雰囲気が出せるところにあります。公文書などにはあまり使われない言葉でしょう。また、話の焦点をぼかすソフトフォーカスレンズのような効果がありますが、それだけに、使いすぎると文章がぼやけてきます。
筆者が「なかなか」を使うようになったのは、以前仕事でご一緒したある方の影響です。
その方は、しばしば次のような使い方をしました。
「○○部長ってさあ、ああ見えてもなかなかなんだよねえ」
「彼もさあ、なかなかだから、気をつけなくちゃいけないんだよ」
何を言いたいのか明確ではないのですが、なんとなく言いたいことはわかるような気がするから、不思議な修辞法です。
一般には「なかなかよい」という含意で使われることが多いのでしょうが、この方の場合は「隅に置けない」とか「裏がある」とか「自分の主張を曲げない」とか、多少ネガティブな意味を込めているようです。しかし、明快に表現してしまうと、いつかその人物評がご本人の耳に伝わって、自分に災いが降りかかるかもしれません。「なかなか」と言っておけば、なんとでも言い逃れができます。
これは独裁国家とか全体主義国家においては極めて有用な語法となるでしょう。
「あそこの基地を見る機会があったんだけどさ、なかなかでしたよ」
などと言っている限りは秘密保護法に抵触する恐れはありません。いまから「なかなか」の使い方に習熟しておいて損はないのかもしれません。〈kimi〉