世の中で最も読まれない出版物は「社史」、と常々断言しております。たまたま元の勤務先が100周年を迎えるとのことで、現役当時の会社のことを話してほしいと依頼を受けました。その社史が出来上がって送られてきましたが、パラパラとページをめくっただけで本棚の奥へ直行となりました。協力者一覧に記載されている私の氏名に誤字もありましたし・・・。
もう一つ、どうしたらよいか途方に暮れる出版物があります。知人の書いた自費出版本です。
つれづれに書かれたエッセイ(ある年代より下ならブログとなるのですが)、趣味で研究した新発見、俳句集、中にはご自身が一生懸命努力したプロジェクトを記録したものも・・・その他もろもろ。
先日、ある大先輩にお会いしたら、「また本を書くから送るよ」と言われて、返事に窮しました。ご厚意はありがたいのですが、いただいた以上は目を通さなければなりません。その上で、礼状ハガキかメールを出さなければ・・・。それが俗世の義理というものです。ところが、これが難しい。小学生の頃から読書感想文は大の苦手で大嫌いです。
こういうことが度重なるうちに、この苦境をなんとか切り抜ける方法を見出しました。
その一。本は読む前に礼状を出す。
送られて来たら、そのことに対してのお礼を申し上げる。「これから読むのが楽しみです」なんちゃって。すぐに読む義理はなくなります。
その二。本の内容には直接触れることなく、その周辺のことを書く。
読んでいないのですから、内容について書けるわけがありません。ざっとページをめくってみて、海外旅行記だったら「衰えることのない好奇心とご健脚には頭が下がる思いです」。句集だったら「よいご趣味をお持ちでうらやましい」。中身がなんであっても使えるのが「ご健筆にはホトホト敬服いたします」。いかにも白々しいですが、そこはやむを得ません。
さてつい先日、昔の同僚で隣町で趣味の教室を開いている人が、エッセイ集を発行したので買ってくださいと、SNSに投稿しているのを見つけてしまいました。間違っても「いいね」などは送らないように、黙ってやり過ごすことにいたしました。