記者会見の向こう側はわからない

ビッグモーター、日大、ジャニーズ事務所と、このところ広報の仕事をしている者には興味深い記者会見が続きました。にもかかわらずこのコラムには、それらについて触れずにきました。
その主な理由は、
1)指摘すべき事項はすでにメディアやネットや「識者」によってほぼ語りつくされているように見える
2)会見のすべてをライブでも録画でも見ていない
3)事件関係の詳細をすべて把握していない
からですが、もう一つ大きな理由があります。
それは当事者の組織内で、それぞれの事案への対処や記者会見への対応などがどのようになされてきたのかがわからないということです。
「わかないから記者会見で追究しているのだ」とメディアのみなさんはお考えになるでしょうが、実際に問題を抱えた当事者を広報的にサポートしてみると、〈そのようなスタンスで答えるしかない〉と判断せざるを得ないケースにしばしば遭遇します。ところが、〈なぜそのように答えるしかないのか〉という理由は会見で説明できる場合とできない場合があります。
いずれにしてもこれはご気楽に判断しているわけではありません。当事者は困惑したり悩んだり逡巡した上で判断を下すのが通常です。組織内でどのような人物たちによってどのようなやりとりが行われたのか、それらを記者席から知ることは、どれほど鋭く追究しようとも不可能です。それは当事者側と記者側双方の立場から記者会見を見て来た者にしかわからないことだろうと思います。安易にコメントできない理由はそこにあります。

この8月に新潮文庫から「山は輝いていた」というタイトルの一冊が発刊されました。山をテーマにした名エッセイを「山と渓谷」の元編集長がまとめたアンソロジーです。
それを読んでいたら、「深田久弥氏のこと」と題する一篇がありました。筆者は藤島敏男さん。東大法学部から日本銀行に入りパリなどにも駐在されたと略歴にありました。登山家でもあって、「日本百名山」で知られる作家が南アルプスを登山中、脳出血で急死したときに同行しており、そのときの状況が滋味あふれる文章で綴られていました。ジャニーズ事務所元社長藤島ジュリー景子氏はこの方の孫なのだそうです。

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