取引上の関係について

医薬品や医療機器のビジネスに、他の業界から入った人たちが等しく感じることは、顧客である医師との関係が、一般の取引関係とは明らかに異なっているということです。売り手と買い手の間に立場の違いがあるのは当然ですが、社会的地位の違い、ときには人間の価値の違いまで想起させるような極端な上下関係は、やはり奇異なことと言ってよいでしょう。
少なくとも1960年代まで、製薬会社の営業社員(当時はプロパーと呼ばれていました)が開業医の奥さんから買い物を頼まれることは決して珍しくありませんでした。そんな名残がいまに続いていて、MR(医薬情報担当者と呼ばれる営業社員をいまはMedical Representativeと呼びます)を一度でも経験したことのある人は、医師の前では無意識に揉み手をして頭が下がってしまう。そんな光景を実際に何度も目撃しています。
さて、最近気づいたのは、PR会社と取引先との関係です。これが隣接分野であるIRの支援会社と取引先との関係に比べて少々違いがあるようなのです。
端的に言ってしまえば、多くの企業はIR支援会社にはアドバイスを求めるのに対して、PR会社には指示をする、というカンジです。
資本市場というのは、一般の事業会社には理解しにくいところがあります。アナリストはどのような考え方をするのか。ファンドマネージャーはどんな企業を評価するのか。上手にIRをするにはどうしたらよいのか。それやこれや、IR支援会社の意見を求めることが多いようです。それを受けて「こういう発表に仕方はよろしくありません」といった助言が日常的に行われています。
それに対してPR会社には、新製品のパブリシティの提案を持ってくるように、とか、○月○日に発表を行うから用意をするように、といったご注文が多いように思います。これはアドバイスを求めているということではありません。PR会社の方から「御社のそういうやり方はマズイですよ」なんて、なかなか言いにくいのがPRの世界です。実際、そのようなアドバイスを差し上げて、仕事がなくなってしまったことがあります。
このような相違が生じたことにはPR会社の方にも責任があるようです。日本にPR会社が生まれてからこの方、しっかりと企業にアドバイスできるだけの専門性をどこまで蓄積してきたか、ということです。もちろんソリューションで成果を挙げておられるPR会社も存在しますが、まだまだ少数派です。
広報のコンサルテーションを掲げる弊社としても、自戒を込めて今後の課題にしたいと思います。〈kimi〉