何を持ち出すか

福島第1原発事故の警戒区域で、一時帰宅が昨日ようやく始まりました。2時間という短時間の中で、それも防護服やマスクをつけての作業では、必要なものをすべて持ち出すことはさぞ困難だったでしょう。自分だったら、何を持ち出すだろうと考えたのですが、通帳や印鑑といった公的手続きに必要なものはともかく、それ以外で優先順位をつけるのはかなり難しい。悩みに悩んだ末に、結局つまらないものを持ってきてしまいそうな気がします。
新聞やテレビの報道によると、アルバムと位牌を持ち帰った方が多いようです。
アルバムは、70年代のテレビドラマ「岸辺のアルバム」以来、家族にとって大切なものという認識が広く共有されるようになりました。とくに自宅に帰れず避難されておられる方々にとって、家族の絆の証であるアルバムはよりかけがいのないものとなったことでしょう。
位牌については、持ち帰った方と花を供えて帰った方がおられたようです。宗教心というよりも、これも家族との絆の象徴と考えられます。どちらにしても、お位牌が無視しがたいものであることは間違いありません。位牌なんて、戒名を書いた木札に過ぎないという考え方もあり得るでしょう。お骨はお墓に埋葬してあると考えれば、持ち出すべきより重要なものがほかにあるかもしれません。
自分ならどうする。自宅の仏壇には、お目にかかる機会のなかったご先祖様も含めていくつものお位牌が祀られています。戦死したご先祖のもある。戦死ったって、第二次大戦ではありません。幕末の戊辰戦争です。それらの位牌を自分ならどうするか。
停電もなくなった東京で、そんな想像をいくら巡らせていても結論は出ません。しかし、いつになったら戻れるか、先の見通せない状況では、お位牌はやはり持ち出さなくてはならない重要アイテムなのだろうなあ、などとも考えました。
ここには日本人の信仰、考え方、心の動き、文化のありよう、人間関係、価値観・・・そんなものが残らず凝縮されています。このような日本人を理解できること。これこそ日本で広報の仕事をしている人に求められている最も大切な能力であると、これだけは確信できるのですが。〈kimi〉