なかなか

日常的で何気ない言葉が、ある人には特別な感情や思いを喚起させるといったことがあるようです。過去の体験、エピソードなどによって一度色づけされてしまった言葉は、もう何気ない言葉などではなくなってしまいます。私にとっては、「なかなか」という言葉がその一つ。若き日、先輩社員の口癖でした。その人は、
「あの部長はなかなかだからねえ」
というふうに使っていました。
その時の口調をいまでも鮮明に思い出しますが、なんだかわかるようでわからない。想像するに、「なかなか手強い」とか「なかなか言うことを聞いてもらえない」といった含意のようで、そこに「ちょっと普通ではない」といったニュアンスが加わっているようにも感じられました。言っている本人もどう表現してよいのかわからずに「なかなか」を使っていたのかもしれません。あるいは明確に表現するのをはばかっていたのかもしれません。

辞書の「なかなか」の項には次のように書かれています。
1.なかほど。半途。中途。
2.不徹底・不十分な状態、もしくは過度の状態が、逆に不満をかき立てること。
3.逆の状況や意味をもたらすこと。かえって。
4.かなりの程度であるさま。ずいぶん。相当に。「―のものだ」
5.(否定の語を伴う)簡単には。すぐには。

狂言で太郎冠者が「なかなか」と返事をすると、打ち消す意味で「とてもそうはなりません」だったり、「いかにもその通り」といった意味になるそうです。どうにも中途半端な表現ですね。

 何ごともなかなかのまま年暮るる

よいお年を。

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